国立感染症研究所バイオセーフティ管理室
杉山 和良
1960年代後半の重篤な出血熱の発生、1970年代の英国における天然痘の実験室感染、1974年の組換えDNA実験の開始等により、バイオセーフティに関しての関心は70年代から急速に高まってきた。リスクに応じて病原体を分類し安全に取扱うという考え方が示された。病原体の取扱いのマニュアルについてはCDC・NIH、WHO共に初版を1983年に出した。逐次、改訂版が出されており、2002年にWHOの3版が出される予定である。マニュアルには病原体のリスク分類に対応して実験操作法,安全装置及び施設設計からなる3つの要素の組み合わせより4つのバイオセーフティレベル(BSL1から4)に分けて病原体を安全に取り扱うことが示されている。BSL4が最もハイリスクの病原体に対応している。
国内では感染研が1981年に病原体等安全管理規程を出している。当初は病原体をクラス分類していたが、1992年から病原体のBSLによる分類を行っている。これまで広く使用されているPレベル(物理的封じ込めPhysical containmentのP)は単に物理的封じ込めの意味にとどまらず、組換えDNAガイドライン等で、組換え体等の取扱の内容も含んで用いられている。今後、BSLで統一的に使用されるようにすべきであろうと思われる。
安全装置の最も代表的なものが生物学的安全キャビネットであろう。1980年代から我が国でも急速に普及が進んだ。組換えDNAのガイドラインには生物学的安全キャビネットの使用について取り決めている。実験室の現場においては、メンテナンス等のプログラムにおいて取り組むべきところがあると思われる。また、新規に生物学的安全キャビネットを使用する者への充実した教育プログラムも必要であると思われる。
施設設計は基本的には建築基準法に基づいて行われる。国際的には、BSL4実験室は宇宙服実験室が主流である。BSL3実験室については国内には約200位の実験室がすでに稼動している。また、実験動物施設については建築及び設備ガイドラインが出されている。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が1999年4月1日に施行された。いわゆる感染症新法施行に伴い、厚生省通知として感染症指定医療機関の施設基準に関する手引きが出されている。
バイオセーフティに関する学会は、米国バイオセーフティ学会 (The American Biological Safety Association: ABSA, www.absa.org )が1984年に設立された。現在、米国以外の18ヶ国から約80名が参加している。会員総数は約740名であり、単なる国内学会という活動だけではない。 ABSAカナダ ( www.ABSA-Canada.org)はABSAの関係団体として1990年に設立され、会員は約90名程である。2000年位からABSA等でもバイオセーフティについての国際的連携の必要性が話題となってきた。2001年10月の ABSA年次総会(ニューオリンズ)の際に、International Biosafety Working Groupについての会議があり、ABSAカナダ、E(ヨーロッパ)BSA、 International Veterinary Biosafety Working Group、International Level 4 Users Group、WHO、ロシア及び感染研のグループが参加した。国際的なリソースとして本グループを活用すること等をめざすことが討議された。次回の会議は、2002年の第7回バイオセーフティシンポジウム(1月26−30日、アトランタ)の際に開催されることになっている。
バイオセーフティを科学的分野に持って行くことや、バイオセーフティの専門職が望まれている機運のなかで、日本バイオセーフティ学会が設立されることとなった。本学会の設立により、バイオセーフティの学術及び普及・向上発展のために広く意見を集約し、提言し実現化していくことが可能であると思われる。バイオセーフティ教育の重要性については改めて言う必要はないが、さらに充実したトレーニングコースが望まれていると思われる。 |